住宅に住み続けたいが夫の単独名義となっている。 ●住宅は、ほとんどが夫婦の共有財産となります。
まず本題に入る前に大前提として知って頂きたいこととして、ここで言う離婚には事実婚(婚姻届を提出していない内縁関係)を解消した方も相続を除き(遺言があれば含まれます)、共有持分・財産分与・養育費・年金分割の対象となるということです。
その上で夫婦の共有名義では当然に妻に居住の権利があることは皆さんも理解できるかと思いますが、登記上夫の単独名義だと離婚により妻には居住する権利が無いと誤解されている方が多いようです。
しかし、夫が相続や結婚前に貯めた現金だけで購入や返済した場合を除き、次の場合は夫婦の共有財産となり妻にも共有持分(居住する権利)があります。
・結婚後に夫名義で夫借主の住宅ローンを組んで購入した
・結婚前に夫名義で購入したが結婚後も夫借主の住宅ローンを支払っている
・結婚後に貯金し始めた預金(現金)で夫名義で購入した
どうして共有財産となるかの理由ですが「結婚後の妻の協力(専業主婦の家事労働も含め)の下に夫が収入を得て貯金し、住宅を取得し、住宅ローンの支払いができた」からです。
したがって、登記(契約)上の名義が夫であってもまったく関係なく、実質的に夫婦の共有財産となります。
自分のケースはどうかわからない方は当事務所にお問合せください。 ●財産分与と共有持分
上記のとおり購入した住宅が夫婦の共有財産の場合、離婚時(別居時)を基準として財産分与の対象となり、原則、夫婦それぞれ2分の1の寄与割合=共有持分=財産分与2分の1が認められます(登記上の単独名義や持分割合は関係ありません)。
但し、次の金銭は相手方配偶者の協力なしで得た金銭(特有財産と言います。但し、明確に通帳など信頼できる書面で証明した場合に限り認め、証明できない場合は特有財産とは認められず共有財産となります。)による支払いがある場合は寄与の割合が変わります(割合の計算式はここでは省略します)。
・頭金を親から贈与された
・頭金を結婚前に貯めた預金から出した
・結婚前に貯めた預金から住宅ローンを払った
ところで、住宅の時価より住宅ローン残高が大きい場合(オーバーローンと言います)、財産分与額は0円と通常は考えます(もちろん、他に預金等の資産と合算してプラスであれば、そのプラス額が財産分与の対象となります)。
しかし、オーバーローンと元妻の共有持分は別計算でゼロにはなりません。
さらに、将来、住宅ローンが支払われていくある時点で時価が住宅ローン残高を超えてプラスになった後は共有持分相当額が元妻のものとなります。
●離婚前の明渡しの要求について
離婚前は住み続けたい側(妻)が※有責配偶者でない限り相手方(夫)単独名義でも夫からの明渡の請求に応じる必要はありません。
※有責配偶者とは原則、以下の5つの婚姻関係の破綻の原因を作った夫婦の一方を言います(民法第770条1項)
・不貞行為:配偶者以外と肉体関係を持ったこと(いわゆる不倫)
・悪意の遺棄:正当な理由なく同居協力扶助の義務を怠ったこと(長期別居や婚姻費用負担なし)
・生死不明:生死が3年以上不明なこと
・強度の精神病:強度の精神病にかかり、回復の見込みが無いこと
・その他婚姻を継続しがたい重大な事由:DV等の暴力など
しかし、夫が上記のとおり実質(潜在)的には夫婦の共有財産であるにもかかわらず、登記上夫名義であること利用して第三者に売却しようとした場合、購入希望者の内見に応じる必要はありませんが、中には事件屋的な不動産会社が内見無しに購入して明け渡しを迫る場合もまれにあります。
この場合、第三者となる不動産会社からの明け渡しの請求を妻は拒めなくなってしまうので対策としては、夫が別居や売却をほのめかすそぶりを見せたら、至急、居住不動産の保全手続(財産分与等を理由に住宅の仮差押)を行い、売却を阻止しましょう。 ●離婚後の明渡しの要求について 離婚前及び離婚後2年の期間以内(令和8年5月迄に5年以内に改正される)に財産分与(共有持分)の協議・請求もせず放置していると、元夫=他人(第三者)の住宅に住んでいることになり、元夫からの明渡しの請求があれば元妻は拒めなくなります。
そこで、できるだけ早く、財産分与(共有持分)の確認を離婚前の養育費や年金分割と共に離婚協議書(できれば公正証書)で作成し(財産分与の合意を拒否された場合は、至急、家庭裁判所に調停又は審判の申立を行いましょう。)、かつ、元夫の共有持分を無視して居住すると損害賠償の請求を受ける可能性があるのでこれを回避するために相場の賃料✖元夫の共有持分に応じた賃料を支払う期間の定めのない賃貸借契約(普通賃貸借契約といいます≠※使用貸借契約ではありません)を交わしましょう。
そして、元夫に養育費の支払義務がある場合、双方の合意に基づき賃料の支払いと養育費の支払いを相殺し、差額を受取る又は支払うという形が良いかと考えます。
※使用貸借契約とは家賃の支払いが無い賃貸契約のことを言い、この場合、貸主はいつでも解約し明渡しを求めることができるため、転居するためや引き取る手続中など一時的な場合を除き避けましょう。 ●共有持分の(仮)登記 離婚後、財産分与を原因として住宅ローンが残っていない場合は共有持分の登記(と同時に共有物分割禁止の特約の登記もする)をしておくことは権利保全として有効ですが、住宅ローン残っている場合はローンの債権者である銀行等の同意を得る必要が事実上あります(同意を得ずに共有持分の登記をすると融資条件違反としてローン残高の一括弁済を求められ、これを無視すると競売にかけられる恐れがあるからです)。
そうすると、共有持分の登記は銀行等の同意は得られない可能性が大きいので共有持分についてローンの完済を条件とした仮登記をすれば元夫の勝手な第三者への売却を仮登記の存在でほぼ阻止できると考えます。
しかしながら、この仮登記も手続をすると登記上記載され、銀行等に知られてしまい、同じく融資条件違反(住宅ローンは元夫の居住の継続を条件に融資したもので離婚や元夫が住宅から住所を移転したことが分かってしまう可能性が大きい)になって一括弁済を求められる可能性も無いとは言えません。 ●共有名義であっても共有物分割禁止の特約の登記がある
以上は住宅が夫の単独名義の場合ですが、登記上夫婦共有名義だったとしても安心してはいけません。
なぜなら、法律(民法)は、権利の乱用に当たらない限り、共有者(元夫)に共有物の分割(換金して持分に応じて分配)する権利を認めていますので、元妻が応じない場合、裁判所に訴え、競売によって換金・分配が可能となり、居住の継続が不可能となってしまいます。
そこでこれを完璧に排除することはできませんが、合意(必ず離婚協議時にしましょう)により5年間(これ以上の期間は認めれれませんが更新は可能)は共有物分割禁止の特約の登記をすることで最低5年は居住の継続が可能となります。
但し、住宅ローンがある場合は、銀行等の承諾なしにこの特約の登記はできますが、これも登記されることで銀行等に夫婦間でトラブルが起きていることが知られてしまいます。
したがって、当事務所では、住宅ローンが残っている場合は今までこの登記を勧めたことはありません。
その代わりに、先述の普通賃貸借契約を結ぶことを勧めています。
●引取りや清算の検討も必要 しかしながら、以上の方法であっても居住の継続が完全に守られるとは言えません。 なぜなら、元夫が失業などで住宅ローンの支払いを怠った結果、銀行等によって競売にかけられた場合、賃貸借契約を結んでいても落札者(新所有者)には対抗できず、明け渡さなければなりません。
また、仮に住宅ローンを完済したとしても元夫の死亡により相続が発生し、元夫の間に子供がいなかった場合は、元夫の持分について元夫の親か兄弟が相続人に、又元夫が再婚しているとその妻・子供が相続人となり、争いが深刻化する恐れがあります。 そこで、将来を見据えて住宅を引き取るか、転居し売却の上、財産分与として金銭を受け取るかも離婚時に検討してベストな解決方法を選択することが重要です。
●夫が契約した賃貸住宅に住み続ける方法
離婚後も元夫名義で契約した賃貸住宅に元妻が住み続けることは、形式的には大家(貸主)の承諾のない賃貸借契約の譲渡(民法612条)になり、大家は賃貸借契約を解除できる(同条2項)ように見えますが、今まで夫婦の同居生活や妻がその住居を使用してきた認識が大家にある場合、本来は妻である限りそのまま居住を継続し得たはずであるから夫から妻への賃貸借契約の譲渡は大家が契約解除ができる程の背信性(悪質さ)が無いとして認められる裁判の判決が主流となっております。
したがって、離婚や内縁関係の解消が決まったら協議書等で賃貸借契約の譲渡の確認をし、速やかに大家に報告・提出しましょう。決して放置して黙って住み続けるのは、かえって悪質・背信行為とみなされる可能性があるのでやめましょう。